ネットカフェに10年、「やりなおしたい」 ―私が現場から伝えたいこと―

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「人生をやり直したい」

40代の男性は小さな声で、しかし私の目をぐっと見つめながら話す。

彼はネットカフェに10年暮らしている。ネットカフェで暮らし始めてから「寝たなぁ」と感じたことはない。大体1~2時間おきに目が覚める。「隣人」のいびきがうるさい。足があたって起こされる。椅子にもたれて寝る。腰が痛い。延長料金が発生しないように制限時間内に出ないといけない。寝過ごすことは許されない。こんな生活をいつまで続ければいいんだろう。不安で眠れない。呼吸が浅くなる。

彼は日払いの仕事をしている。1日6000円~8000円だ。月に25日働けば15万~20万にはなる。ネットカフェ代はなんとか出せる。貯金も少しずつだができる。貯金をしてネットカフェ生活を脱出、アパート生活を目指したこともあった。

しかし、現実は厳しい。日払いの仕事は直前に決まることが多い。直前になって「今日の仕事はない」と言われることもある。その時はわずかな貯金からネットカフェ代を捻出する。アパート生活のための貯金が減っていく。

体調不良で仕事に行けないこともある。多少の熱であれば仕事に出る。そうしなければホームレスになってしまうから。しかし、どうしても動けないときがある。保険証は切れているから市販薬でどうにかする。体がだるい。うまく呼吸できない。息苦しい。何もする気になれない。考えることができない。ネットカフェで暮らし始める前は、こんなことなかったのに。

日払いの仕事をしていれば、とりあえずはネットカフェに暮らし続けることはできる。しかし、年齢とともに段々と仕事がきつくなってきた。収入が減ってきている。同時に貯金も減ってきている。このままだとネットカフェ代が出せない。ホームレスになってしまう。どうすればいい。

彼はネットカフェのパソコンで手当たり次第に情報を探した。生活保護に関する情報が沢山出てきた。生活保護、聞いたことはある。住民票がないと生活保護は受けられない、借金があると生活保護は受けられないと書いてあった。でも、別のサイトでは住民票がなくても借金があっても生活保護を受けられると書いてある。どっちが正しいんだ…。自分は生活保護を受けられるのか?生活保護受給者を非難する記事も沢山ある。生活保護のことを「ナマポ」と言うらしい。自分は生活保護を受けていいのか?確かに40代になるまでなんとなく生きてきた自分も悪い気がする。生活保護以外の方法はないのか?

パソコンの画面をスクロールし続ける彼はホームレスやネットカフェ難民を支援するという団体のHPを見つける。「炊き出し」というものや生活相談をやっているらしい。でもHPの情報だけだと何をやっているかわからない。変な危ない団体かもしれない。新興宗教暴力団がそういうのをやっていると聞いたことがある。そもそも自分はなんとかネットカフェに住み続けられている。こういう団体のところにはホームレスとか自分より困っている人が行くんだろう。でも、このままだとホームレスになってしまう…。

数週間後、彼は覚悟を決めて「支援団体」が行っている生活相談へ行く。

ジーパンにTシャツというラフな格好の男性が出てきて「今日はどうしました?」と言う。自分よりずいぶん若く見える。自分より若い人に困っていることを話すのは嫌だ。でも、そんなこと言ってられない。ここまで来たら後に引くことはできない。後に引いたところでホームレスになる未来しかない。言ってしまおう。

「人生をやり直したい」

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以上は、私が生活困窮者支援の現場で出会った人たちの体験談をまとめたものです。

そして、今、かれらはネットカフェ生活を脱出してアパート生活を送っています。

「人生をやり直したい」という希望を叶えています。人生はやり直せます

私から、今、この文章を読んでいるあなたに伝えたいことは、あきらめないでほしいということです。日本には不十分だけれども、あなたの生活を守るための制度があります。すぐ後に「あなたの生活を守るための情報」をまとめました。これを参考にしてあなたの生活を守ってください。

私は「つくろい東京ファンド」という団体でスタッフとして生活困窮者支援活動を行っています。私は上に出てきたような人を沢山見てきました。同時に、自分のアパートに暮らして未来に向かって生きる人も沢山見てきました。あきらめないでください。

たしかに「支援団体」と言われている我々は怪しいかもしれません。会ったこともないのに見ず知らずの団体を信用することなんてできないのが普通です。そこで、国が出している情報も含めて「あなたの生活を守るための情報」をまとめました。様々な情報を参考にしながらあなたの生活を守ってください。

最後に、少なくとも私は、あなたが今置かれている生活困窮という状況はあなたの責任ではないと思っています。ぜひ相談しやすいところ・人に相談してみてください。

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【あなたの生活を守るための情報】

■ホームレス総合相談ネットワーク(2017)『路上からもできる わたしの生活保護申請ガイド』

lluvia.tea-nifty.com

日本には生活に困ったときに利用できる制度としていくつか制度がありますが、その際よく利用される制度が生活保護です。この本(ウェブに全文記載)は、生活保護申請の方法、生活保護に関する知識について記載されています。また、それだけではなく、生活保護以外の制度のことや借金のことなどについても記載されています。福祉事務所(役所の生活保護を申請するところ)の場所や困ったときに相談すべき相談機関の連絡先も記載されています。生活保護を申請する際には一読しておくことをお勧めします。

 

■日本弁護士連合会「あなたも使える生活保護

www.nichibenren.or.jp

生活保護制度のしくみや申請方法、よくある誤解などについてわかりやすくまとまっています。ネットで生活保護について検索しても残念ながら誤情報が多いのが現状です。このパンフレットを参考にして正しい知識を得てください。

また、日本弁護士連合会ではこのパンフレット以外にも様々パンフレットを出しているので参考にしてみてください。

 

■認定NPO法人 自立生活サポートセンターもやい HP

www.npomoyai.or.jp

生活保護やその他生活に困ったときに使える制度について解説しています。

また、対面形式での生活相談や電話相談なども受け付けています。本やHPを見てもよくわからないことや、直接会って相談したいときには是非ご相談されることをお勧めします。

 

■認定NPO法人 ビッグイシュー基金 HP『路上脱出・生活SOSガイド 東京23区版・大阪版・札幌版・熊本版・名古屋版・京都版・福岡版』

bigissue.or.jp

生活保護やその他生活に困ったときに使える制度について解説しています。また、各地の支援団体に関する情報・連絡先も記載されています。炊き出しなどの情報も記載されているので是非ご活用ください。

 

厚生労働省 HP

www.mhlw.go.jp

生活保護に関することは生活保護法に基づいて決められていますが、それを取りまとめているところが厚生労働省です。厚生労働省は国の機関で生活保護など福祉に関係することなどを担当しています。厚生労働省HPでは、生活保護に関することやQ&Aが記載されています。先に示した情報と併せてご活用ください。

 

■藤田孝典(2014)「お金が無くても保険証が無くても病院受診する方法!」

news.yahoo.co.jp

生活に困ったときにはいくつか利用できる制度があり、その際よく利用される制度が生活保護だということは先ほど説明しました。生活保護以外にもいくつか制度があるわけですが、そのひとつに無料低額診療事業というものがあります。お金がなくても無料もしくは低額で医療を受けられる可能性があります。医療を受けたいという方は是非この記事をご覧ください。

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※ネットカフェや路上生活からアパートを確保する際の注意点と現状

 ホームレス状態の人やネットカフェ難民の人など、住居(持家や自分で借りているアパートなど)がない人が生活保護を申請した時に、今後の行き先である住居をどのように確保するのかというのが問題となります。現状では、都市圏を中心に、いったん「施設」に行き、その後しばらくして、自分で借りたアパートなどへ移っていくことが多いです(必ず「施設」に行くということではありません)。アパートに移るときには敷金や礼金、保証料、手数料など転宅に必要なお金が出ます。また家具代も出ます。

 問題は、この「施設」というものです。「施設」には様々な形があり、一人部屋もあれば複数人部屋もあります。家賃以外に費用をほぼ取らないところもあれば沢山取るところもあります。決まりごとがあまりないところもあれば沢山あるところもあります。正直なところ、どのような「施設」に行くことになるかは、生活保護を申請して、「施設」へ行く段階にならないとわからない場合が多いです。「良い施設」もありますが、「悪い施設」もあります。「施設」での生活に耐えきれず出ていってしまう人もいます。「施設」の詳細は各自治体の福祉事務所(役所の生活保護を申請するところ)や支援団体に問い合わせてください。

 つくろい東京ファンドはこのような状況に対して、①施設の個室化、②施設からアパートへの速やかな転居、③アパート転居後の支援体制の整備、④ネットカフェや路上から施設を経由せずに直接アパートへ移ることができる支援体制(ハウジングファースト)の整備を訴えています。詳細は拙著「ホームレス状態にある人に対する居住支援の現状と課題~つくろいハウスの実践をとおして~」をご覧ください。

ハウジングファースト 住まいからはじまる支援の可能性

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