働くこともできず、帰国することもできず、生活保護を受けることもできない

NHKで以下のニュースが配信されていました。

 

―――――

不法滞在などで逮捕のベトナム国籍の男女「新型コロナで失職」

2020年10月31日 7時41分

 

群馬県太田市で不法に滞在を続けていたなどとして逮捕された、ベトナム国籍の男女13人のうち、一部が調べに対し「新型コロナウイルスの影響で職を失った」などと供述していることが、捜査関係者への取材で分かりました。全員が群馬県外で技能実習などをしていて、SNSを通じて知り合ったとみられ、警察は、相次ぐ家畜の盗難事件との関連を捜査しています。

 

ベトナム国籍の20代と30代の男女13人は、群馬県太田市で在留期限が切れたまま滞在を続けていたなどとして、出入国管理法違反の疑いで逮捕されました。

 

警察のこれまでの捜索で、滞在していた太田市内の住宅から、冷凍された30羽余りの鶏が見つかったほか、13人のうち、一部がSNS上で豚肉の売買について、やり取りしていた疑いがあるということです。

 

その後の調べで13人のうち、一部が「新型コロナウイルスの影響で職を失った」とか「コロナの影響で飛行機が飛んでおらず、ベトナムに帰れなかった」などと供述していることが、捜査関係者への取材で分かりました。

 

全員が、茨城や熊本など、群馬県外で技能実習などをしていて、ベトナム人のコミュニティーSNSを通じて知り合ったとみられるということです。

 

警察は群馬県を中心に、関東で相次ぐ家畜の盗難事件との関連を捜査しています。

www3.nhk.or.jp

―――――

 

このニュースからは、

・このベトナム人たちは技能実習生であったこと

・何かしらの理由で技能実習在留資格を更新できず非正規滞在になったこと

・コロナの影響で帰国することができなかったこと

がわかります。

 

この事件に関連して以下のニュースが配信されています(2020年9月18日配信)。

www3.nhk.or.jp

コロナ禍で企業の業績が悪くなり、技能実習生たちが「自己都合退職」という形で解雇され、生活ができなくなっている状況があるとのことです。

 

今回の事件については続報が待たれますが、記事から推測するに、9月18日の記事と同様の問題があったのではないかと思います。つまり、勤務先に解雇され、在留資格の更新ができず、非正規滞在化し、かつ、コロナの影響で収入も得られず、だからといって帰国もできないという状況です。換言すれば、この状況は何かしらの支援がないと生きていけない状況です。

 

日本国民(日本国籍者)の場合は、生活に困ったら生活保護を受けることができます。外国人(外国籍者)も永住者や定住者などは受けられます(注1)。

しかし、このニュースのベトナム人たちは生活保護を受けることができません。そうであれば、選択肢は2つで、働くか、帰国するかです。ですが、今回、このコロナ禍の影響でこの2つともできなくなってしまいました。この窃盗事件はベトナム人たちが生きるための唯一の方法だったのだと思います。

 

この事件の問題は2つあると思います。

ひとつは9月18日の記事に書いてあるような不当解雇の問題。

もうひとつは生活保障の問題です。窃盗行為が許されないのは当然ですが、窃盗行為をしなければ生きていけないという状況は問題であり、是正されなければなりません。何かしらの形でこれらの人たちの生活を保障すべきです。

 

私は生活保護の適用をすべきだと考えています。

帰国することができない状況を鑑みて、帰国するまでの間は生活保護を適用することが必要です。人権と治安の両面から見て今すぐに行うべきです。

 

 ~~~~~

(注1)より詳しく言うと、入管法別表第2の外国人、特別永住者などです。また、外国人に対する生活保護は権利としては認められていません。この点についてはまた今度書きます。

【社会福祉系教員になるために】社会福祉士実習演習担当教員講習会とは

JREC-INというサイトには大学などの教員採用情報が載っています。いつものように何となく見ていたら、社会福祉系大学の公募に「『社会福祉士実習演習担当教員講習会』を修了していることが要件である」という一文を見つけました。例えばこんな大学。
jrecin.jst.go.jp


なんだこれと思い、ある人に聞いたところ、こんなのを教えてもらいました。
jaswe.jp


この講習会は、演習担当講習4日間、実習担当講習4日間の計8日間。費用は4万円と4万円の計8万円。高い…。しかしこれを修了すれば公募に応募できる。しかもこれを要件にしている大学は少なくない。


ということで、2019年8月6日~9日(演習)、2019年8月26日~29日(実習)に受講してきました。全日とも講義形式やワークショップ形式の講義でした。とても楽しく受講できました。主催団体から許可をいただいていないので詳細をお伝えできず残念です。


参加者は私のような大学院生や福祉現場で働いている人、また既に演習実習の担当教員の方も参加していました。年齢は20代から60代ぐらいでしょうか。中年層の方が多かったように感じました。合計100名程度でした。驚いたのは、みなさん頭がキレッキレで素晴らしく優秀だったことです。すべてが滞りなくサクサク進みます。


講習会についてはざっとこんな感じです。
正直、公募の要件を満たすためだけに受講しました。8日間どうにかしてやり過ごそうと考えていましたが、予想に反して実りの多い講習会となりました。
8万円という受講料は痛いですが、今後教員になりたいと考えている人は早めにとっておくべきだと思います。


最後に講習会で使ったテキストをご紹介します。

相談援助演習 教員テキスト 第2版

相談援助演習 教員テキスト 第2版

相談援助実習指導・現場実習 教員テキスト 第2版

相談援助実習指導・現場実習 教員テキスト 第2版


この記事が誰かのお役に立てればと思います。

オーダーメイド集計と生活保護【回答編】

以前書いたブログの続き。
yumananahori.hatenablog.com

既存の統計調査ではわからなかったことがわかるようになるオーダーメイド集計というのがあって、生活保護に関する統計である「被保護者調査」でもオーダーメイド集計は使えるか否かという内容だった。

厚労省に問い合わせたところ、瞬く間にお返事をいただいた。とてもお忙しいだろうに。ありがとうございました。大変お手数おかけしました。

以下、質問と回答。
オーダーメイド集計は「被保護者調査」を対象としていますか?
A.お問い合わせの「被保護者調査」につきましては、オーダーメード集計の対象調査ではございません
対象としていない場合、今後対象とする予定はありますか?
A.現在のところ、対象調査追加の予定はございません

①については、やはり対象外だった。残念…。
②については、対象にする予定はないとのこと。残念…。

「被保護者調査」がオーダーメイド集計の対象になれば、生活保護研究の可能性が広がる。私の研究テーマである「外国人と生活保護」に関するオーダーメイド集計を是非行いたい。
首を長くして待っていよう。

大学生などに対する支援制度と外国人【回答編】

以前書いたブログの続き。

yumananahori.hatenablog.com

 2020年4月から大学生などに対して新制度が始まる。外国人も適用されるが在留資格によっては適用されたりなれなかったり。ということで以下の2点を担当者の方に問い合わせてみた。瞬く間に返信をいただいた。凄まじくお忙しいだろうに。感謝。ありがとうございます。

 

「申込の可否」が〇×で示されていますが、〇×の基準は何でしょうか?何をもって〇あるいは×としているのでしょうか?

A.現行の奨学金制度(貸与型・給付型)と同様の取扱いですが、一定の在留資格を持つ場合は新制度の対象となり申込可能であるため、〇と付しております。


「定住者」については「上記のうち将来永住する意思があると認められた者」と規定しています。「永住する意思」はどのように判断するのでしょうか?

A.永住する意思については、申請時に本人に確認しその旨を日本学生支援機構と大学等へ申告いただくことで確認しております。

 

①については、ハッキリとした答えは返ってこなかった。しかし、従来よりこの運用で行われていることはわかった。基準について調べるなら日本学生支援機構に尋ねると良いだろう。

②については、ハッキリとした答えが返ってきた。本人が永住するという意思を見せれば良いということだろう。

 

この回答結果が少しでも外国籍学生のためになればと思う。

 

オーダーメイド集計と生活保護

オーダーメイド集計というものがある。

オーダーメード集計とは、既存の統計調査で得られた調査票データを活用して、調査実施機関等が申出者からの委託を受けて、そのオーダーに基づいた新たな統計を集計・作成し、提供するものです。

統計局ホームページ/オーダーメード集計の利用

簡単に言うと、既存の統計調査ではわからなかったことがわかるようになるということだ。研究の幅が広がる。素晴らしい。

 

私もオーダーメイド集計を利用した調査を行ってみたい。ただ何をどうすれば良いのかわからない。ということで、まずは統計センターの説明。

独立行政法人 統計センター|オーダーメード集計の利用

 

あとは実際にオーダーメイド集計を利用した論文を参照した方が分かりやすいだろう、ということで2論文の紹介。
・髙谷幸ほか(2015)「2010年国勢調査にみる外国人の教育 : 外国人青少年の家庭背景・進学・結婚」『岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要』39, 37-56

CiNii 論文 -  2010年国勢調査にみる外国人の教育 : 外国人青少年の家庭背景・進学・結婚

・髙谷幸(2019)「現代日本における移民の編入様式 : 家族を通じた分岐とジェンダー構造」『大原社会問題研究所雑誌』729, 65-89 ※大原社会問題研究所HPにフルペーパーあり

CiNii 論文 -  現代日本における移民の編入様式 : 家族を通じた分岐とジェンダー構造

 

色々調べてみたが大きな問題が2点あった。
①費用の問題
 オーダーメイド集計は自分ではできない。統計センターや各省庁が代わりに行う。その際、1時間当たり4400円の費用が発生する。奨学金で研究している身。この費用負担は厳しい。
②利用可能なデータの制限
 すべての統計調査でオーダーメイド集計ができるわけではない。私は生活保護に関するオーダーメイド集計を行ってみたい。生活保護に関する統計調査として代表的なものは、厚生労働省が行っている「被保護者調査」だ。そして、なんと本調査はオーダーメイド集計の対象に入っていない…!なんてことだ。極めて残念…。


f:id:osawayuma:20190821183034j:image

オーダーメード集計の利用 | ミクロデータ利用ポータルサイト

 

しかし、何としてでもオーダーメイド集計を利用したい。私はあまり優秀とは言えない大学院生だ。「底辺研究者」としてやれることはやる。しぶとさで勝負だ。
一縷の望みをかけて関係機関に問い合わせてみる。その結果はまた報告します。

【無料低額宿泊所】2019.8.17 貧困研究会定例研究会に参加して

貧困研究会の定例研究会に参加した。

第32回定例研究会無料低額宿泊所のゆくえ | 貧困研究会

 

テーマは「無料低額宿泊所(以下、無低)」について。無低とはなんぞやとやってしまうと長くなってしまうので、詳細は以下のリンク参照。簡単に言うと、お金のない人や生活保護受給者を無料または低額で泊まらせる宿泊所。しかし実際にはそこそこのお金をとるし、劣悪な住環境の場合もある。「貧困ビジネス」と批判されることもある。

生活保護費を搾取する「大規模無低」の正体 | 政策 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

 

今回は、そんな近年問題視されている「無料低額宿泊所」についての研究会だった。講師は山田壮志郎先生。日本福祉大学の教授で、現在国で行われている無低に関する検討会の委員でもある。https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syakai_390337_00001.html

 

無料低額宿泊所の研究――貧困ビジネスから社会福祉事業へ

無料低額宿泊所の研究――貧困ビジネスから社会福祉事業へ

 

 

 

無低に関しては2018年に社会福祉法と生活保護法の改正があった。社会福祉法の改正では「貧困ビジネス」規制について、生活保護法では優良無低(日常生活支援施設)の創設について規定された。
詳細は山田先生の論考がよくまとまっているので参照されたい(ひとつ上のリンク先の第1回検討会資料参照。なぜかリンク先を表示できない…)。

 

今回はここまで。以下、次回ブログへの導入。

家がない人が生活保護を受けると施設に回される。その施設がとても劣悪。24人部屋なんてのもある。お金もすごい取られる。だから自分のアパートに早く移りたい。しかし役所の許可が必要。どんな条件で許可されるかわからないし、いつ許可されるのかもわからない。我慢できず施設を出る。路上生活。生活保護は受けたくない。ずっと路上。生活困窮。というようなことが行われている。珍しいことではない。日常茶飯事。

続きはまた今度。

【2020年4月から実施】大学生などに対する支援制度と外国人

2020年4月から高等教育の修学支援新制度が開始されます。詳細は以下のリンクをご覧ください。簡単に言うと、条件を満たした大学生などに給付型の奨学金が出たり、授業料が減免されたりする制度です。

高等教育の修学支援新制度:文部科学省

 

誰が対象になるかが気になるところですが、「住民税非課税世帯及びそれに準ずる世帯の学生」が対象になるようです。どれぐらいの人が捕捉されるんだろうと少しモヤモヤしますが、私の関心は別にあります。それは外国人がこの制度を受けられるかどうかです。結論から言うと、一定範囲内の外国人もこの制度を利用できます!詳細は以下のリンク「Q58」をご覧ください。

高等教育の修学支援新制度に係る質問と回答(Q&A):文部科学省
f:id:osawayuma:20190816102145j:image

対象者はこんな感じですが、2つ疑問があります。

①申込の可否の基準はなにか。何をもって○×になっているのか。

②定住者は「永住する意思があると認められた者」のみが制度利用できるということだが、「永住する意思」はどのように判断するのか。

これら疑問に対する答えはまだわかりませんが、関係機関に問い合わせて聞いてみたいと思います。